はじめに:
今回は、通常ちょっと厄介な3Dイメージの接写、特に「タイムラプス」3D動画を接写する方法の机上検討です。*1
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[1]検討の概要
[1−1]目的
「身近にある小さな現象(植物の種子の発芽など)の拡大観察を想定して、縦横10〜20mm程度の範囲を視野とするタイムラプス3D動画の接写に適し、なるべくシンプルで安価かつ容易に手作りできる装置の案を考える」ことを、本検討の目的とします。
[1−2]結果
下記2つのアイデアを考案しました。
・アイデアA:実体顕微鏡+コリメート 方式(図1)
(双眼式)実体顕微鏡1台と、webカメラ2台を用意する。webカメラ2台は、実体顕微鏡の2つの接眼レンズに、各々アダプターを介してコリメート方式で取り付ける。右眼光路を通して撮った画像を右眼像、左眼光路を通して撮った画像を左眼像として、ステレオペアにする。一定の時間間隔でステレオペアを繰り返し撮影するように、webカメラをPCで制御する。*2

・アイデアB:スライド絞り方式(図2)
一眼カメラと、中間リングと、大口径標準レンズの組み合わせ一式を用意する。同レンズの前面に配置したスライド絞りを、光軸と直交する左右方向にアクチュエーター(ソレノイドなど)で駆動して往復移動させる。スライド絞りの開口が被写体に向かって左側に来たときに撮った画像を左眼像、同じく右側に来たときに撮った画像を右眼像として、ステレオペアにする。一定の時間間隔でステレオペアを繰り返し撮影するように、一眼カメラとアクチュエーターをPCで制御する。

[2]検討の詳細
[2−1]背景
右眼像と左眼像との視差によって立体感を生じさせる3Dイメージの撮影では、一般に接写がちょっと厄介です。それで思いついたのが、前にご紹介した「シーソー方式」です。
このシーソー方式、手軽に出来る点は良いのですが、撮れるのは静止画にほぼ限られ、動画撮影には不向きです。また、被写体はシーソーに載せて動かせる小物に限られ、動かせない(あるいは動かしたくない)ような物は撮れない、という制約もあります。ですから、動かせない物や動かしたくない物(今回想定した発芽する種子もこれにあたります)を3D動画で接写するには、別の方法を考えないといけません。
[2−2]解説:そもそも「接写が厄介」とは?
上記「3Dイメージの接写が厄介」とは、どういうことでしょうか。以下にその意味を3Dイメージの接写における「内向角」の観点で説明します。ここで言う内向角とは実体顕微鏡用語からの借用で、立体視に際して右眼光路と左眼光路の両光軸が観察対象の物体(試料)においてなす角度のことです。内向角が小さすぎると立体感が乏しくなり、逆に大きすぎると立体感が不自然に強調されて観察者が疲れるので、適切な大きさにする必要があります。実体顕微鏡分野では、この内向角はおおむね12°とされています(下記リンク参照)。
3.3 双眼実体顕微鏡|3. 顕微鏡の種類と構造|顕微鏡の基礎─日本顕微鏡工業会(JMMA)
今回の検討における3Dイメージの接写は、想定する撮影視野のサイズが実体顕微鏡における観察視野のサイズとオーダー的に重なります。そこで本記事では、3Dイメージの接写における内向角の適正値を、実体顕微鏡に準じた12°として検討を行います。
さて、実体顕微鏡のことはいったん横に置いて、3Dイメージの接写のためにマクロレンズ付き一眼カメラを2台用意して、内向角が12°になるように並べるとします(図3)。被写体からレンズ先端までの距離(以下、これを作動距離/ワーキングディスタンス、略してWDと呼びます)が1000mmとか500mmでは問題なくても、100mmとか50mmくらいになるまで近づくと、レンズ同士がぶつかって12°の内向角が保てないことになります。このことを、市販品のスペックを参考に確かめてみましょう。

例として、ニコンの一眼カメラ用マクロレンズ(ニコンではマイクロレンズと呼んでいますが)NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 で考えます。このレンズの最短撮影距離は160mmで、その場合の結像倍率は等倍、WDは50mmです(図4)。
NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 - 製品特長 | NIKKORレンズ | ニコン

ここで、組み合わせるカメラボディのイメージセンサーがニコンDXフォーマット(いわゆるAPS-Cサイズ)とすれば、等倍結像時の視野はイメージセンサーと同じ約24mm☓16mmになります。これは今回の検討条件の視野「縦横10〜20mm程度」と比べると少し大きめですが、おおむね合致するので条件は満たしているとします。
では、このレンズを付けた一眼カメラ2台がなす内向角を12°に保った状態で最短撮影距離の接写(つまり等倍撮影)が出来るかというと、それは無理です。このレンズの外径は約74.5mm、また接写時に繰り出される一回り細い前群部分でも50mm近くあるので、その太さがじゃまをして2本のレンズを十分に近づけられないからです(図5の上半分参照。赤色斜線部は2台の重なり)。もちろん、レンズだけでなくボディの大きさもじゃまになります。2台が互いにじゃまにならずに内向角12°で撮影できるようにするには、WDを350mm以上にする必要があります(同図の下半分参照)。ですから、この例のカメラとレンズでは、今回目的としている撮影はできないことになります。3Dイメージの接写の厄介さは、このようなところにあります。


逆に考えると、レンズが十分に細くて長いならば、内向角12°は実現できます。例えば、WD=50(mm)の場合はレンズ先端の外径が10mm以下、またWD=100(mm)なら同じく20mm以下なら問題ない、と言えます(図6)。しかし、一眼カメラ用のマクロレンズでそのように細いものは、私の知る限り市販されていません。ですから、「マクロレンズ付き一眼カメラ2台では今回の目的が果たせない」という話になります。*3
となると、大事なのは「どうすれば接写で内向角12°が実現できるか」、これが課題になります。どうすれば良いでしょうか。
[2−3]課題解決のアイデア
[2−3−1]アイデアA:実体顕微鏡の利用
先に[2-2]で実体顕微鏡用語の説明をしたので、まるで答えを用意していたかのような流れになりますが、その実体顕微鏡をもう一度見てみましょう。実体顕微鏡は両眼立体視のための中〜低倍率顕微鏡なので、これをマクロレンズ代わりに出来るかも知れません。価格面も機能のシンプルな機種や中古品なら数万円から入手可能です。それでは具体的に考えてみましょう。
実体顕微鏡の代表的なスペックとして、総合倍率10倍だと実視野の直径は約20mm、同じく20倍だと約10mm、そして40倍だと約5mmになります。ですから総合倍率10倍ないし20倍なら前記条件の視野におおむね合致します。そして内向角12°の条件については、そもそもこの条件が実体顕微鏡に共通のスペックから流用したものなので、実体顕微鏡を使うならば内向角もおのずとこの値になります。視野と内向角がOKとなれば、あとは実体顕微鏡の像をどうやってカメラで撮影するか(実体顕微鏡とカメラの光学的なつなぎ方)、ということになります。
ここで、肉眼で接眼レンズを覗いた時に像が見えるしくみを理解することは重要です。図7(イ)はそれを描いたもので、対物レンズが空中に光を集めて1次像を作ると、その一点から発した光は接眼レンズを通ると(ほぼ)平行光になり、さらにこれが眼球に入ると網膜上の一点に集められます。こうして網膜にはピントの合った2次像が結ばれるので、像が見えます。このしくみを踏まえて眼球をカメラに置き換える方法を考えれば良い、という訳です。その方法には、同図(ロ)〜(ニ)の3つの方法があります。

(ロ)接眼レンズの位置をずらせる方法:
接眼レンズを通常の位置よりも手前側(図上右方向)にずらせることによって、1次像をさらに拡大した2次像が得られる。これに、一眼カメラなどレンズ交換が可能なカメラのボディーを組み合わせて撮影する。なお、実体顕微鏡(接眼レンズ)とカメラをつなぐためのアダプターが必要。*4
(ハ)カメラ用アダプターレンズを使う方法:
接眼レンズを外し、かわりにカメラ用の市販アダプターレンズを取り付ける。これに、一眼カメラなどレンズ交換が可能なカメラのボディーを組み合わせて撮影する。
アダプターレンズの例(1):中央精機(株)製「TS-TVA-1 顕微鏡用TVアダプタ」
TVアダプタ -中央精機株式会社 | 精密ステージユニット、光学関連機器-
アダプターレンズの例(2):マイクロネット(株)製「NY-1S スーパーアダプター」
顕微鏡用ミラーレスカメラ・一眼レフカメラ取付アダプター NY-1Sスーパーアダプター | マイクロネット
(ニ)接眼レンズと通常撮影用レンズ付きのカメラ を組み合わせる方法(コリメート方式):
通常観察と同じ設定の接眼レンズに、アダプタを介して通常撮影用のレンズの付いたカメラをつなぐ形で取り付ける*5。ここで使用するカメラは、コンデジやwebカメラのように撮影レンズが固定式のものでも良いし、一眼カメラやCマウントカメラのように交換可能なものでも良い。
以上3つの方法を必要機材の観点で比べると、(ロ)と(ハ)はレンズ交換可能なカメラが必要なのに対して(ニ)はカメラの選択の幅が広いという違いがあり、いずれもメリット・デメリットはありますが、今回の検討における条件「安価かつ容易に手作りできる」に照らして、ここではwebカメラとの組み合わせも可能な(ニ)の方法で行くことにします。
本記事では、実体顕微鏡と図7(ニ)による上記方法を「実体顕微鏡+コリメート 方式」と呼ぶことにします。上記考察に実際的な条件を加味してまとめた、同方式の具体的な案を以下に示します(図8参照)。

・全体構成:実体顕微鏡+webカメラ(2台)+アダプター+制御用PC
・実体顕微鏡:総合倍率 10x〜20x(対物レンズ 1x〜2x、接眼レンズ 10x)、実視野の直径約10mm(20xの場合)〜約20mm(10xの場合)
・webカメラ:UVCタイプ、焦点調節は手動または固定
・アダプター:webカメラ(2台)を実体顕微鏡の左右両光路に取り付ける機構。接眼レンズの射出瞳位置にwebカメラの撮影レンズが合うように位置調整ができる。また、2台のwebカメラ間で視野のずれをなくすように姿勢調整ができる。
・制御用PC:一定の時間間隔で繰り返し左右の像を同時に撮影するように、2台のwebカメラを制御する。
[2−3−2]アイデアB:偏心絞りの利用
上記「実体顕微鏡+コリメート 方式」は課題解決の正攻法と言えますが、実体顕微鏡は機材としてちょっとハードルが高いかも知れません。もっと普通の写真機材だけでなんとかならないものでしょうか。
具体的なアイデアの前に、カメラレンズにおける絞りの作用について改めて考えてみましょう。絞りの作用といえば、開け閉めによる、像の明るさの調整と、被写界深度つまり像の焦点が合う範囲の調整と、の二つを意味するのが普通です。しかしこれらとは別に、絞りを偏心させた場合、「被写体を見る方向が変化する」という作用がそこに生じます。
図9は、絞りの偏心が被写体を見る方向にどのように影響し、その結果として像がどう変化するかを描いたもので、(a)は偏心がない場合、(b)が被写体に向かって左側に偏心した場合、そして(c)が同じく右側に偏心した場合です。

図9 絞りの偏心による被写体を見る方向の変化
通常のカメラレンズの絞りは(a)のように偏心がなく、絞り開口の中心はレンズの光軸上にあります。この場合、写るのはまさにレンズの中心から被写体を見た像(図ではサイコロを正面から見た像)になります。
これに対して絞りが(b)のように左に偏心すると、被写体から発した光線のうち、左寄りのものが絞り開口を通って像を結びます。その結果、(b)で写る像は(a)に比べて、左方から見た像になります。
そして絞りが(c)のように右に偏心すると、(b)とは逆に右寄りの光線が像を結ぶので、右方から被写体を見た像になります。
ということは、レンズとカメラを固定した状態でも、絞りだけを左右にずらせて同じ被写体を撮影すれば、絞りの位置によって「左眼像」と「右眼像」が得られ、これらを合わせればステレオペアになる、という訳です。*6 なお、絞りを左右にずらせて撮影するということは、撮影レンズの有効径がそのずれ量をカバーできるくらい大きい、すなわち相応にF値の明るいレンズが必要になります。また、このことは同時に、その有効径内であれば絞りのずらし量(すなわち内向角の大きさ)を任意に設定できる、という特徴にもなります。
本記事では、偏心絞りを用いる上記方法を「スライド絞り方式」と呼ぶことにします。上記考察に実際的な条件を加味してまとめた、同方式の具体的な案を以下に示します(図10参照)。

・全体構成:スライド絞り+アクチュエーター+アクチュエーター駆動回路+大口径標準レンズ+中間リング+一眼カメラ(ボディ)+制御用PC
・スライド絞り:普通のカメラレンズの絞りは偏心させられないので、代わりに外付けの絞りを用いる。口径数mmの円形絞りを、光軸と直交する方向にスライド移動することによって、偏心絞りにする。
・アクチュエーター:スライド絞りを10数mmのストロークで往復移動させる(例:ソレノイド、サーボモーター等)。
・大口径標準レンズ:明るさはF2程度以上、焦点距離fは50mm程度。偏心絞りを通った光線をケラレなく結像するために、大口径が必要。また、目的の視野を得るためには等倍程度の結像になる接写が必要だが、そのような接写に望遠レンズは不向きなので、f=50(mm)程度の標準レンズを用いる。
・接写リング:f=50(mm)の標準レンズで等倍結像なら接写リングの厚みは50mm、2倍結像なら同じく厚み100mm。なお、等倍を超える結像倍率の場合はリバースアダプターの併用が望ましい。
・制御用PC:一定の時間間隔で繰り返しスライド絞りを左右に駆動し、その動きに合わせて左右の像を相次いで撮影するように、アクチュエーター駆動回路と一眼カメラを制御する。一眼カメラの制御にはテザー撮影用ソフト(gphoto2など)を利用する。
[3]次にやること
「実体顕微鏡+コリメート方式」と「スライド絞り方式」のそれぞれについて、得られる3Dイメージの立体視効果を、簡単な実験で検証します。
[4]補足:実体顕微鏡による3Dイメージ撮影の先例
実体顕微鏡には写真撮影のためのカメラ取り付けポートを備えた製品も多くありますが、それらは右眼像か左眼像かのいずれか片方をカメラポートに通すもので、両方の像を撮影して3Dイメージを得られるわけではありません。しかし、かつてニコンがそれを可能にする試作品を作り、東京大学の研究所で試用され、撮影されたステレオ写真が(四半世紀近く前の)2001年から同研究所のサイトに掲載されていることを、この記事を書いている最中に知りました。
このような実績があってもなおこの種の製品が市販されていないところを見ると、実体顕微鏡の3Dイメージを撮影するニーズは今も昔も多くはない、ということでしょう。それでもやるとすれば、資金があるなら[2-3-1]でご紹介した市販リレーレンズと一眼カメラを2セット購入するのが確実でしょう。また、そうでなければ(この検討が目的とする)手作りしかないな、と改めて思った次第です。
*1:本記事では、「3D」と「ステレオ」を同義とします。また、「3D(ステレオ )写真」と「3D(ステレオ )動画」を合わせて「3Dイメージ」と呼ぶことにします。
*2:このアイデアの参考情報として、「[4]補足:実体顕微鏡による3Dイメージ撮影の先例」を、本記事の末尾に記載しました。
*3:これはあくまでここで選んだレンズとカメラの寸法に基づく話なので、Cマウントのレンズとカメラ、あるいはM12レンズとラズベリーパイ・カメラなど、より小型のものを検討すれば、良い組み合わせが見つかるかも知れません。
*4:かなり昔…1990年代頃まで…は、この方法で拡大した2次像をスクリーンや紙に映して、観察したり像をなぞってスケッチすることが、特に明るい視野が得られる透過照明型の顕微鏡では行われていました。また、天体望遠鏡による太陽観測では、太陽投影板に太陽像を映し出す観察方法が、今でも行われています。これらの先例は、例えば直径20mmの1次像から、2次像は5倍とか10倍の直径100mmや200mmに拡大するので、そもそも拡大観察用に作られている接眼レンズに適合した使い方、とも言えます。いっぽう今回の検討で、カメラのイメージセンサーとして想定できるのは、最大でもいわゆる「フルサイズ」(24mm☓36mm)なので、2次像が直径100mmとか200mmだと、本来の視野のごく一部しか撮影出来ません。接眼レンズのずらし量を大きくして拡大率を下げ、2次像を小さくする(イメージセンサーに合わせる)ことが必要です。その場合、収差が増大して像が劣化する可能性がありますが、劣化の程度…許容範囲内かどうか…は一概には言えず、個別の検討が必要になります。
*5:肉眼で接眼レンズを覗くのと同様に、カメラで接眼レンズを覗く形。これは一般に「コリメート方式」と呼ばれます。
*6:この方法だと左眼像と右眼像の撮影に必ずタイムラグが生じるので、通常の動画撮影には不向きです。しかし、本検討の目的はタイムラプス動画の撮影なので、仮に秒オーダーのタイムラグがあったとしてもほぼ問題はない、と考えました。