【はじめに】
今回は、撮影方法のアイデアを検証する目的で行った、前回のステレオ写真実験について、事前の準備がどんなものだったか、を解説します。
- [1]ふりかえり
- [2]基本の機材
- [3]視野と結像倍率
- [4]レンズの繰り出し量
- [5]作動距離
- [6]絞り板の事前検討
- [7]絞り板(2つ穴)の製作
- [8]撮影準備完了
- [9]参考(内向角の違いで見え方はどう変わる?)
[1]ふりかえり
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タイムラプス3D動画の接写方法について、これまでに下記3つの記事を書きました。
記事①:
記事②(前々回):
接写でタイムラプス3D動画 −②実体顕微鏡+コリメート方式 の実験−
記事③(前回):
この中で記事②と記事③には、実験結果として下記のような写真を掲載しました。


左:写真1(倍率は10倍、視野は円形部が直径23mmで幅と高さが各21mm)
右:写真2(倍率は20倍、視野は円形部が直径11.5mmで幅と高さが各10.5mm)


左:写真3(視野は幅21mm☓高さ27.9mm)
右:写真4(視野は幅10.5mm☓高さ14.0mm)
これらの撮影方法に関して、記事②はシンプルで、10倍/20倍切り替え型の実体顕微鏡にスマホカメラをあてがってシャッターを切っただけのことでした。しかし記事③の方は、撮影前にそれなりの準備作業が必要でした。その準備について(記事③ではスルーしていましたが)本記事で説明します。*1
なお、準備の結果として、記事③の撮影は下記リストの条件で行いました。この結果に至るプロセスの解説が、以降の[2]〜[8]の内容になります。
記事③の撮影条件*2
- イメージセンサー:幅17.3mm☓高さ13.0mm(フォーサーズ)
- 撮影レンズ:焦点距離50mm、口径比F1.7
- 絞り(条件A):左右2つ穴、穴直径6mm、穴間隔10.2mm
- 絞り(条件B):左右2つ穴、穴直径6mm、穴間隔8.6mm
- 視野(条件A):幅21.0mm☓高さ27.9mm
- 視野(条件B):幅10.5mm☓高さ14.0mm
- 結像倍率(条件A):-0.619
- 結像倍率(条件B):-1.24
- レンズ繰り出し量(条件A):31.6mm
- レンズ繰り出し量(条件B):63.2mm
- 作動距離(条件A):97mm
- 作動距離(条件B):55mm
- 内向角(条件A):6°
- 内向角(条件B):9°
[2]基本の機材
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記事③の準備にあたり、まず手持ちのカメラ機材の中で役立ちそうなものとして、下記の一式を選びました(写真5)。これらの機材のスペックに基づいて、[3]以降の検討を行いました。
- カメラボディー:オリンパスE-510(フォーサーズのデジタル一眼レフ。イメージセンサーのサイズは幅17.3mm☓高さ13.0mm)
- 撮影レンズ:オートリケノン 1:1.7 f=50mm(M42マウントのフィルム一眼レフ用標準レンズ。1970年代頃のリコー製)
- 中間リング:アサヒペンタックスオート接写リングセット(M42マウントのフィルム一眼レフ用接写アクセサリー。厚さは実測で9.6mm(No.1), 19.0mm(No.2), 28.4mm(No.3)。1980年頃の旭光学製)
- マウントアダプター:M42-4/3(M42マウントのレンズをフォーサーズのボディーに取り付けるもの。2000年代頃の近代インターナショナル製)
※これに、後述の[6]では事前検討用の偏心量可変絞りが加わります。また、[7]と[8]では本番撮影用の2つ穴の絞り板が加わります。

[3]視野と結像倍率
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まず前提として、記事②の実験で使用した実体顕微鏡の視野は、直径23mm(倍率10倍時)および直径11.5mm(倍率20倍時)の円形でした。それをアスペクト比1:1(正方形視野)設定のスマホカメラで撮影した結果、四辺が少し削られて幅と高さが各21.0mm(10倍時)および各10.5mm(20倍時)の視野になりました([1]の写真1、写真2)。
ところで、ステレオ写真や3D動画では、(表示方法にもよりますが)基本的に右眼画像と左眼画像を左右に並べてステレオペアにします。ですから、視野の幅と高さに関して、立体感に直接影響するのは幅の方です。そこで記事③の実験では、撮影結果が比較し易いように、視野の幅を記事②と同じ21.0mmおよび10.5mmに合わせることにしました(図1)。以下、記事②の10倍に対応して視野が幅21.0mm(☓高さ27.9mm)になる条件を「条件A」、同じく記事②の20倍に対応して視野が幅10.5mm(☓高さ14.0mm)になる条件を「条件B」と呼び、各条件に対応するパラメーターには添字A,Bを付けて区別します。

次は、条件Aと条件Bでの結像倍率(横倍率β)の計算です*3。イメージセンサーのサイズと視野のサイズとの比がそのまま横倍率βになります。前述の通りここでは幅の方が考え方の基準なので、幅のサイズでの計算を示します。
条件A: βA=-13.0/21.0=-0.619 …(1-A)
条件B: βB=-13.0/10.5=-1.24 …(1-B)
[4]レンズの繰り出し量
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[4−1]計算値
上記βA, βBの結像に必要な(無限遠物体の結像状態に対する)レンズの繰り出し量x'を求めます。図2は、焦点距離fのレンズが物体Oの像O'を結像する際の、それらの位置関係を表します。ここでFは物体側焦点、F'は像側焦点、Hは物体側主点、H'は像側主点を表します。なお、図中で光軸方向の座標は右方向を正とするので、x(FからOまでの距離)は負の値になります。また、光軸と直交する方向の座標は上方向を正とするので、y'(O'の高さ)は負の値になります。

ここで、一般に次式が成り立ちます。
β=f/x=-x'/f …(2)
この式(2)により、f=50(mm)のレンズで横倍率が前記βAになるための、レンズ繰り出し量の計算値xAc'、および同じく横倍率が前記βBになるためのレンズ繰り出し量の計算値xBc'が、次のように求まります。
条件A: xAc'=-f・βA=-50・(-0.619)≒31.0(mm) …(3-A)
条件B: xBc'=-f・βB=-50・(-1.24)=62.0(mm) …(3-B)
[4−2]実機値
レンズの繰り出し量に関して、上記計算値xAc'およびxBc'を実際に前記[2]の機材に設定して撮影実験してみたところ、得られた視野は必要な視野(図1の破線の矩形)よりもやや広いものになりました。そこで、必要な視野が得られるように位置関係を調整した結果、レンズ繰り出し量は次の値にすれば良いことがわかりました。
条件A: 31.6(mm)(=xAe') …(4-A)
条件B: 63.2(mm)(=xBe') …(4-B)
これらの値を、それぞれレンズ繰り出し量の実機値xAe'および同xBe'と呼ぶことにします。また、以下の検討では、レンズ繰り出し量にはこれら(4-A), (4-B)の実機値xAe', xBe'の方を適用します*4。
なお、上記撮影実験に際して、条件Aでのレンズ繰り出しは、中間リングのNo.3(厚さ28.4mm)と撮影レンズのヘリコイド繰り出し3.2mmとで設定しました(28.4+3.2=31.6(mm)=xAe')。同じく条件Bでは、中間リングのNo.1(9.6mm), No.2(19.0mm), およびNo.3(28.4mm)と撮影レンズのヘリコイド繰り出し6.2mmとで設定しました(9.6+19.0+28.4+6.2=63.2(mm)=xBe')。
[5]作動距離
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上記[4−2]の撮影実験に際して、作動距離(WD)を実測し、下記値を得ました。
条件A: WDA=97(mm) …(5-A)
条件B: WDB=55(mm) …(5-B)
[6]絞り板の事前検討
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[6−1]事前検討の目的
スライド絞り方式はビネッティング(口径食)を生じやすいので、撮影条件を誤ると画像にカゲリ*5やケラレ*6が現れます。特に右眼光路と左眼光路のとり方(≒左右の絞り穴の間隔)をどうするかは、その種の現象に直接影響します。そこで、本番の撮影(記事③の実験)でカゲリやケラレを生じないように、事前検討を行いました。
[6−2]事前検討の方法
・撮影レンズの前方(鏡筒先端)に所定の穴径の絞り板を置き、偏心量を段階的に変化させて、ひとつの被写体を撮影する。
・得られた画像のカゲリやケラレを生じなかった偏心量の範囲で、本番の撮影に適用する偏心量を決める。
・この検討を、条件Aと条件Bの両方で行う。
[6−3]検討
[6−3−1]絞り穴の作り方
事前検討に用いる偏心量可変絞りは、自作する必要があります。問題は絞り穴の作り方ですが、今回は黒い厚紙に事務用パンチで穴を開ける方法を採りました。これで、直径6mmのきれいな絞り穴が簡単に作れました。なお、この絞りをf=50(mm)の撮影レンズと組み合わせた場合の開口比は、単純計算で
FNo.=50/6=8.3 …(6)
になります。これは、本件の事前検討にも、また本番の撮影にも、程よい値だと考えます。
[6−3−2]偏心量可変絞りの製作
絞り板は80mm角の黒い厚紙で、その中央にパンチ穴の開口を付けました。これをひと回り大きな台紙を介して撮影レンズの先端に装着しました(写真6、写真7)。絞り板を左右に移動させることで偏心絞りになり、偏心量は台紙に付けた目盛りで読み取ることが出来ます。


[6−3−3]偏心量と内向角の関係
本番の撮影(記事③の実験)における作動距離WDと偏心量と内向角の関係を、図3に示します。なお、以下では絞り穴の偏心量をydc*7、内向角をθcv*8で表します。ここで、ひとつの内向角θcvに対して、偏心量ydcは符号が異なり絶対値が等しい一組の値を取り、その符号は像(カメラ側)から物体(被写体側)に向かって右側が正で左側が負、とします。

図3より、次式が成り立つことがわかります。
ydc=±WD・tan(θcv/2) …(7)
上記式(7)を用いて、内向角θcvを3°ずつ段階的に変化させた場合の偏心量の絶対値|ydc|を、条件A(WDA=97(mm))、条件B(WDB=55(mm))それぞれについて求めた結果を、下記リストに示します。
内向角θcvと偏心量の絶対値|ydc|との関係
- θcv=0(°)→|ydcA|=|ydcB|=0(mm)
- θcv=3(°)→|ydcA|=2.5(mm), |ydcB|=1.4(mm)
- θcv=6(°)→|ydcA|=5.1(mm), |ydcB|=2.9(mm)
- θcv=9(°)→|ydcA|=7.6(mm), |ydcB|=4.3(mm)
- θcv=12(°)→|ydcA|=10.2(mm), |ydcB|=5.8(mm)
- θcv=15(°)→|ydcA|=12.7(mm), |ydcB|=7.2(mm)
[6−3−4]撮影
上記[6−3−3]の偏心量ydcA, ydcBを [6−3−2]の偏心量可変絞りに設定して、撮影を行いました。その結果を、写真8-Aと写真8-Bに示します。*9


[6−3−5]評価と線引き
写真8-Aと写真8-Bより、偏心量ydcA, ydcB(の絶対値)が小さいとカゲリもケラレもなく、大きくなるとまずカゲリが、次いでケラレが現れる、という傾向が見て取れます。そしてこの傾向における可否の線引きとしては、ケラレが生じれば不可、カゲリが強く現れればやはり不可、しかしカゲリが軽微ならば可、としました。これにより、条件Aでは |ydcA|≦5.1(mm)(θcvA≦6°)を、条件Bでは |ydcB|≦4.3(mm)(θcvB≦9°)を、それぞれ「可」の範囲と線引きしました。
[6−3−6]本番での偏心量
偏心量と内向角の可否線引きが出来たので、次に(記事③の)本番の撮影での偏心量と内向角をいくらにするか、を決めました。
記事③の実験結果は記事②のそれと比較したいので、内向角は、記事②で使用した実体顕微鏡のθcv=11(°)を参考にしました。つまり、ステレオ写真としての立体感を比較し易いように、11°と少しずつ異なる値として、条件BはθcvB=9(°)、条件AはθcvA=6(°)、としました。|ydc|とあわせて、下にまとめます。
条件A: |ydcA|=5.1(mm), θcvA=6(°) …(8-A)
条件B: |ydcB|=4.3(mm), θcvB=9(°) …(8-B)
[7]絞り板(2つ穴)の製作
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(8-A), (8-B)の値に基づいて、本番撮影用の2つ穴の絞り板を2種類作りました(写真9)。条件Aは偏心量がydcA=±5.1(mm)なので穴間隔は2|ydcA|=10.2(mm)、条件BはydcB=±4.3(mm)なので穴間隔は2|ydcB|=8.6(mm)、各穴は前述の通り事務用パンチで開けたので、直径6mmです。


[8]撮影準備完了
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撮影条件が決まり機材も揃ったので、本番撮影のために機材を組み合わせました(写真11-A、写真11-B)。


右:写真11-B(条件Bの組み合わせ。中間リングNo.1, No.2, No.3とヘリコイド操作とでレンズを63.2mm繰り出した。)
以上で準備作業を完了しました。この状態で撮影したのが、前回の記事「③スライド絞り方式の実験」に記載したステレオ写真です。
[9]参考(内向角の違いで見え方はどう変わる?)
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[6]の事前検討で撮影した画像によるステレオ写真を以下に示します。カゲリ・ケラレのことはさておき、内向角θcvが3°から15°まで変わると見え方にどう影響するかを見てみましょう。










* * *
*1:本記事の中では、細々とした計算もやっていますが、それは記事②と記事③の結果をなるべく同じ土俵で比べられるようにするためのものです。ですから、特にそのような事情さえなければ、細かい計算などは省略して、機材選びや条件設定をもっとおおまかにやっても(当然のことながら)全く問題ありませんし、そのような読み方をして頂けると幸いです。
*2:リスト中の「条件A」と「条件B」については、[3]で説明します。
*3:以下の光学的な検討で使用する用語、記号、公式、座標、符号、等は結像光学において一般的なものですが、今回は特に 松井吉哉著『結像光学入門 光学系取扱いの基礎』(啓学出版 1988年)を参考にしました。
*4:xAe',xBe'がxAc',xBc'よりも大きな値になったのは、撮影レンズの実際の焦点距離が公称値(50mm)よりも長いから、と考えられます。具体的には、f=51(mm)とすれば実機値xAe', xBe'とほぼ整合します。
*5:局所的に明るさが低下する現象
*6:局所的に真っ暗になる現象
*7:偏心:decentering
*8:内向角:convergence angle
*9:計算で求めたydcA, ydcBが0.1mm単位なのに対して、自作の偏心量可変絞りに付いている目盛りが1mm単位なので、計算値どおりの設定は困難で、実際の設定値には±0.5mm程度の誤差が見込まれます。しかし、この事前検討はカゲリやケラレに関するおおまかな線引きが出来れば良いので、特に問題はないと考えました。